Start where you are. Use what you have. Do what you can. ーArthur Robert Ashe Jr.
その場所から始めなさい。持っているものを使いなさい。出来ることをやりなさい。
アーサー・アッシュ
国内メーカーに勤めている30代の係長です。早く課長になりたいのですが、今の自分の環境では30代で課長に出世した事例がありません。そこでキャリアアップのためコンサルに挑戦してみたいのですが、未経験でマネージャー職を希望するのは無謀でしょうか。
はっきり言って、未経験でいきなりマネジャーとして活躍するのは相当に難易度が高いです。
20代のマネジャーが活躍する世界なので、年功序列の意識が強い日本企業出身の方であれば、自分よりも若い上司に耐えられない気持ちもわかりますし、コンサルに挑戦しようという気概を持つくらいですからそれなりに仕事で成果を出してきた自信もあるのでしょう。
しかし、そもそも働き方のプロトコルが異なる可能性が高いので、そこにアジャストするために一定の期間が必要なことも確かです。他業界から来た方に話を聞くと、やはりみなさん転職後に一定期間苦労された経験をお持ちなので、口を揃えてまずはスタッフ職からスタートすべきであると言います。
また、実際に未経験でマネジャーになってしまったがゆえに、プレッシャーに耐えられずわずかな期間で去っていった人を私も何人も見てきました。
がしかし、あえてこの記事では30代でスタートするならばいきなりマネジャーを目指すことを推奨してみたいと思います。その実現に向けて、候補者が何を期待されているのか、そしてその期待値に応えるためにどのような準備をしておけばよいのかについて解説していきます。
なお、30代で想定されるポジションはおかれた環境で大きく異なると思いますが、ここでは主に冒頭の質問者さんのようにマネジメントポジション一歩手前という読者を想定しています。
目次
30代のマネジャー候補に期待されていること
未経験から育てることが前提の20代の採用とは異なり、30代の転職では入社後すぐに現場で通用する即戦力のスキルが求められます。即戦力とは、コンサルワークに必要な能力が備わっているということに加えて組織に不足している領域のスキルを有しているという期待値です。
あなたがマネジャーとして即戦力であることを面接の場で証明するためには、コンサルのマネジャーの役割がどんなものかを知る必要があります。マネジャーの仕事内容については別記事で詳述しますが、マネジャーに求められる役割は大きく2つになります。
- 顧客とのコミュニケーションの主役 = 会社の顔になること
- チームの成果を最大化するためのマネジメント
クライアントのプロジェクトマネジャーの参謀として業務に当たるのがマネジャーです。顧客の悩みを聞きつつ、解決するべき課題を明確化し、それを解決する実現可能な筋道を描く。この一連のアクションの巧緻があなたの所属するファームの評価に直結します。
プロジェクトの推進に当たって顧客も含めたチームの行動プランを定め、その遂行に責任を持つこともマネジャーの責務です。プロジェクトの規模によっては複数のマネジャーが分担して担うこともありますが、少なくともあなたが担当する領分においては、パートナーや多くの専門家の力を借りつつ、あなた自身がプロジェクトを主導していくことが求められます。
もしあなたが特定の領域で業界トップレベルの知見や人脈を有しているのであれば、その分野の仕事に対応することは容易でしょう。外資系コンサルファームでは、業界トップ企業からの転身者が多く活躍しているのは紛れもない事実です。
ただし、そのスキルだけで長く活躍することはできません。マネジャーとして重要なのは、その個の力を軸にして、いかにチームとして成果を出していくかという部分です。そのような素養があるかどうか、マネジャー候補はそこが厳しくジャッジされると心得てください。
では、具体的にどのような観点でマネジャー採用が行われるのかを見ていきましょう。
未経験でマネジャー採用に挑戦するためのチェックポイント
- あなたはこれまでの仕事の中で自らの意思で何かを始めたことがありますか?
- その実現に向けて、自分よりも地位の高い人や組織を動かしたことがありますか?
- 成果を上げるために上司や外部の人の力を最大限に活用しましたか?
もし、いずれの問いに対してもイエスと答えられるのであれば、マネジャー応募にチャレンジしてみる資格があります。もし、イエスと自信を持って答えられない問いがあれば、それこそがあなたが応募前に取り組んでおくべきことに他なりません。
さらに言えば、これらの問いで想定されているレベル感はひょっとするとあなたの感覚とファームの期待値の間にズレがある可能性があるので、次章でもう少し詳しく説明していきたいと思います。
マネジャー職を手に入れたい30代が今準備すべきこと
自らが仕事の起点になる
まず通常業務を効率よく終わらせて時間を作り、ぜひ上司から与えられた以外のことに取り組んでみてください。そして、それを上司に提案して実行に移すという実績を作りましょう。この経験は面接において、ひいてはコンサルタントになってからのあなたの武器になります。
上司を説得して新しいことを始めるためには、課題分析や市場調査など様々なアクションが必要になるでしょう。世の中の情報をただ収集するのではなく、それらをキュレーションして世の中にない独自の見解にまとめるというスキルはコンサルとして若い頃に死ぬほど訓練させられるため、この能力が不足していると筋の悪いマネジャーだと若手から突き上げられることになります。
その仕事におけるあなたのオリジナリティは何ですか?
そのアイデアにいかにたどり着いたのか、そしてそれが優れているところは何なのかをぜひ面接で語れるようになってください。まずはここがスタート地点です。
上司や組織を動かす
さて、そうやって作ったアイデアはあなたの上司、そしてあなたの会社の経営層にとって魅力的に映るものになっているでしょうか?もし役員から難色を示されるようであれば、それすなわち顧客からそのような反応を受けてしまうというのがあなたの現在の実力値です。コンサルのマネジャーとして戦うには足りません。逆にそれがうまくいくようであれば大いに可能性があります。
ぜひ、今の仕事の中で上司を説得し、会社を動かすことにチャレンジしてみてください。
上司とソリが合わないから無理?古い体質の企業だから挑戦は敬遠される?いやいや、コンサルのマネジャーが対峙し、先導していかなければならないのは、正にそんなあなたの上司たちなのですよ。
よく勘違いされているのですが、ファームのネームバリューがあるから、コンサルタントが言うからということでは残念ながら組織を動かすことはできません。もちろんそういった権威に盲目的に信頼を置いてくれる人もいますが、本当に変革をもたらすためにはそのアイデアに、そしてそれを担当するコンサルタント自身を信頼してもらえないとまるで物事は動きません。
つまり、あなたが今いる組織の中で影響力を行使できないのであれば、コンサルタントになったとしてもやはり同じ状況に陥るということです。だから、あなたがどうやって自分よりも立場の強い相手を動かしたのかが面接の場で問われるのです。
いきなり大きなことはできないでしょうから、まずは小さなアイデアをぶつけるところからでも構いません。上司から振られた仕事に対してあなたなりのアレンジを加えてより大きな成果を目指すという形でもいいでしょう。その小さな一歩がやがて大きな結果として返ってくるはずです。
そうやって得た経験を咀嚼し、自分よりも立場の強い相手を動かすための自分なりの方法論を組み立ててみましょう。それはマネジャーとして必ず手に入れておくべき武器です。
他者の力を借り、粘り強くチームで成功を勝ち取る
どんなアイデアも実行段階で多くの障害にぶつかるはずです。
とりわけ未開領域で大きな成果を達成するためには、あなた自身の力だけでそういった障害を乗り越えられる可能性は低く、誰か他の人の力を活用することは絶対に必要です。
新規性が高かったり専門性の高い課題についてはググっても本当に必要な情報は落ちていませんよね。ピンポイントで解決できる能力を持った人にたどり着けることは稀ですし、仮にたどり着けてもその人の力を借りることが難しいことも往々にしてあります(そのような人は得てして売れっ子なので)。組織や上司の意向で必要なリソースを奪われてしまう理不尽にも出会うことでしょう。
そんな時に、どうやって必要なリソースを充足するのか、そのために誰にどのようにアプローチして、いかにしてチームとして戦える力を伸ばすのか。これこそが正にマネジャーが日々頭を悩ませている課題でもあり、その仕事の醍醐味だとも言えます。
あなたの所属する会社によっては、30代でも役職上の部下がいないということもありうるでしょう。それは残念ながらマネジャー転職を目指す上では大きなディスアドバンテージです。ですが、それでも組織で動く以上は他者を動かす経験は積めるはずです。
スタッフ層の優秀な人材は、自分が残業して手を動かして解決しようとしがちですし、これはまた新任マネジャーが陥りがちな罠でもあるのですが、この問題に気合いと根性で立ち向かうと必ず疲弊して破綻します。それ以外のカードを切るのがマネジャーの勤めです。
改めて問います、あなたは組織の成果を最大化するために、どのようにあなた以外の力を活用できますか?
最後に
記事を書きながら未経験のマネジャーチャレンジはやはり難しいかなと思いました。
が、未経験であればマネジャーでなくてもどうせ厳しいことには変わりないので、であるならばより裁量が大きく給与水準も高いマネジャーでスタートして成功した方がマシというのがやはり回り回っての結論です。
そのためには記事内で言及したようなマネジャーが直面する課題に転職前に取り組んでおくことが重要だと思います。仮にマネジャーとして採用されなくても、こういった働き方ができるならばコンサルタントとして活躍できる素地ができるでしょう。
ごく稀ですが、未経験スタートでありながらも中には驚くほどスムーズに適応できる人がいることも確かです。そんな人材に話を聞くとやはり前職時代に創意工夫して孤軍奮闘してきた経験を色々と聞くことができます。そして、ファームの中にこんなにノウハウがあるのは信じられない、とても素晴らしいという反応があります。
一方、活躍できない人材からは教育制度が足りないとか情報共有ができていないといった不満の声をよく聞きます。同じ情報に触れているはずなのになぜそうなるのか、答えはここまで読んできた方ならお分かりいただけるでしょうね。
もし30代でコンサル業界にチャレンジするならば、率先垂範を心がけ、今、目の前の仕事で大きな成果を達成しておいて欲しいと思います。