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40代未経験からのコンサル挑戦は無謀か

At forty you stand upon the threshold of life, with values learned and rubbish cleared away. ーAlgernon Blackwood

人は40歳にして人生の門戸に立つ。価値あるものを身につけ、不要なものを捨て去って。

アルジャーノン・ブラックウッド

40代になり、今の仕事で変化が感じられなくなってきました。もっといろんなことがしたいのでコンサル業界にチャレンジしてみたいと思うのですが、未経験でもコンサル業界に入るのは可能でしょうか?

残念ながら40代でのコンサル未経験転職は極めて難易度が高いです。

少なくともその年齢でスタッフ職で採用される可能性はゼロです。あなたが管理職でないのなら、書類選考を通ることはまずないでしょう。SEならまだしも、40代でマネジャー未満というコンサルタントを私は見たことがありませんし、候補として面接したこともありません。

一方、もしあなたが業界をリードできるような経験・知識を持っており、それを証明できるポジションを築けているのであれば可能性は十分にあります。その場合、マネジャー職ないしはパートナー職での採用が前提になります。多様性が重要視され、人材の流動性が高まる中でそのようなケースは年々増えてきたように感じます。

本記事は、そのようにキャリア形成に成功しながらも心機一転コンサル業界にチャレンジしてみたいという方に向けて、コンサル業界でいかに戦うべきかを論じてみたいと思います。

40代未経験からのコンサルキャリア考

40代未経験からコンサルに挑戦するのであれば、2通りの道しかありません。領域専門家もしくは営業プロフェッショナルです。当然ながら、若手のようにゼロからコンサルワークを学んでゼネラリスト的に育ててもらえるということはありえません。

領域専門家(SME)としてのキャリア

あなたの保持しているスキルによってはいわゆる領域専門家(Subject Matter Expert)として非常に重宝されるケースがあります。タイミングよくそのスキルが即戦力として活かせるような案件があるときに採用募集にかかればとんとん拍子に内定を勝ち取ることができるかもしれません。

しかし、実際のところ異業界から領域専門家として入り、そのまま長期に渡って活躍できた方を私は知りません知識や経験のみに頼った働き方で生き延びられるほどこの業界は甘くないのです。

社内にノウハウが少ない高度なスキルを手にしていれば、初めの頃は引くて数多で重宝されるのですが、やがてその知識は若くて優秀なスタッフが吸収しつくしてしまいます。よほど特殊な専門性でない限り、あなた自身のスキルが唯一無二であり続けることはできません。どんな専門領域であってもせいぜい2、3年の寿命でしょう。しかもそのニーズが高ければ高いほど陳腐化も早いのです。

そして専門知識だけで解けるような問題はクライアント企業が自力で解決してしまっているため、そもそもそういった仕事はコンサルワークにはなりえないということもまた専門家として生き抜くことを難しくしています。コンサルタントとして活躍するためには、特定の分野に強い専門性は持ちながらも、それ以外の様々なテーマに対応できるだけの応用力の方が大事なのです。

複合的で多様な専門家の知見を組み合わせることで、業界の常識を打ち破るような解決策が求められるような場面では特定分野に偏った専門知識はむしろ邪魔になるケースすらあります。にもかかわらず、あなたがもし特定の専門領域に固執するならばジリ貧の道を歩むことになるでしょう。

さまざまなKPIの達成を求められるシニアクラスのポジションを維持することは用意ではありません。高い専門性を持ちながらも、ただそれだけの人というレッテルを貼られて活躍できないまま去っていった方を私は何人も知っています。

ただ幸いなことに外資ファームでのパートナーの肩書きを得ることができればその先食いっぱぐれる心配はなくなるという側面はあります。コンサルとしては無能と評価されながらも、その後華麗な転身で華々しいキャリアを築き上げる方が多いのも事実です。

つまり、コンサルとしてキャリアを終えるのかそれともコンサルを足がかりに次のキャリアアップを狙うのか、どちらに向かうかで生存戦略は変わるということですね。

もし、あなたが特定の専門性を買われてコンサル業界に挑戦しようというのであれば、もしその専門性を失ったらどうするだろうか、自分はどんな価値提供ができるだろうかと思考実験をしてみるとよいでしょう。

もし、手持ちの武器を失ってもなお、自分は新しい武器を手に入れて戦うことができるというのであれば、年齢など気にせずコンサル業界で活躍することは可能です。また、その武器がファーム外の人材市場で通用するものであればその先のキャリアアップを目的に一時的に身を置いてみるという戦略は十分に理に叶うとも言えます。

営業プロフェッショナルとしてのキャリア

もしあなたが営業の達人であれば、領域専門家よりもはるかに大きな対価を得られる可能性があります。とりわけSIerなどで経営層を相手にしたB2Bのソリューション営業を生業としてきたような方はどのファームからも引く手数多でしょう。

活況のコンサル業界とはいえ、ファーム間での競争は激化していますし、新規開拓は必要です。そこを担える人材ニーズは決してなくなりません。

どのファームも課題解決の専門家は粒ぞろいなので、新規案件を獲得してしまえばそこから先のプロジェクト運営はそういった人材に任せてしまえます。あなたは得意な営業ワークに集中することができるのです。

これは出世魚のようにクラスによって大きく役割を変えていかなくてはならないコンサルファームの組織構造が生み出している隙間です。コンサルタントとして大活躍してきたのに、シニアクラスに出世して営業が下手で伸び悩むという人材がやはり一定数います。だからこそ、営業畑で大きな仕事を捕まえる経験を積んできた人の専門性は大きなアドバンテージを持つことになるのです。

とはいえ、活躍するためにはコンサルとしてのお作法を身につける必要があるので、そこをどう乗り越えるべきかについて次章で述べたいと思います。

未経験からのカルチャーギャップの乗り越え方

長期間別の業界、とりわけ日本企業にいた人にとって、大きなギャップを感じるのが組織カルチャーでしょう。日本の事業会社とは組織風土・そして働き方が全く異なるケースが多いので、過去20年も親しんできたやり方から移行するのに苦労してしまう方も多いです。

組織のヒエラルキーで忖度されない

日本企業、とりわけ大手企業とこれまで何十社とお付き合いしてきた中でよく感じた違和感は、会議の場での発言権が役職のヒエラルキーと比例するということです。アイデアを持っていていろいろ考えている平社員が、いざ部長が参加する会議の場になると一言も発しなくなるなんて場面は何度も見てきました。部下の発言は値踏みされ踏み倒されることで上司の権威性が維持されるという年功序列の悪弊が見事に発揮されている組織のなんと多いことか。

しかし、コンサルファームではそうはいきません。会議の場で発言しないのは存在しないのと同じだと徹底的に教育されているので、入社1年目の若手であっても、パートナーの意見だろうが間違っていると思うならばそこに異を唱えることに躊躇しません。

当然、仕事のできない上司は蔑まれますし、仕事はどんどん奪われていきます。そして、そんな下からの評価はすぐに組織に知れ渡ります。そんなことにならないように肩書きではなく、あなたの実力で勝負しなければならない世界なのです。

当然、あなたがファームに着任次第、この試練は訪れます。最初に呼ばれたMTGはひとまず様子見で周りを観察して雰囲気を見てみようなんて悠長なことを考えていませんか?その考え方は完全にアウトです。

そのような状況がわからないシチュエーションにおいても、必ずあなたがいなければ到達し得なかった結果をもたらすということを使命感を持ってやりましょう。絶対に発言し、存在感を示してください。事前情報がないために状況判断を間違えてしまうこともありえるかもしれませんが、沈黙よりはよほどマシです。

必ず、どんな場面においてもあなたという個人の力を忖度なく発揮する姿勢はまず何よりも大事だと肝に銘じて欲しいです。

ファクトベース、再現性の重視

肩書きベースではない議論を支えるのがファクトとロジックです。ゴールに向けて正しい道筋を描くことこそが重要で、そこには個々人の権威性など関係ないということです。当然、優れたアイデアにはひらめきも必要ですが、クライアントワークである以上、実行するにあたってはその成功要因をロジカルに説明できなければなりません。

よくわからないけれど頑張ったらたまたま大成功しましたというのは事業会社のサクセスストーリーとしては大いに評価されるものでしょうが、誤解を恐れずに言うと、その仕事の特性上コンサルワークにおいて再現性のない偶然の成功は評価に値しないのです。

つまり、もしあなたが領域専門家として、あるいは営業マンとしてすばらしい直感を持っていて大きな成果をあげられるとしても、それがあなたにしかできない芸当である限りは最大級の評価は得られないということです。

あなたが保持する、あるいは見出した知見を形式知化して、後達に伝授することまでできて初めて価値が認められるのです。このような組織的な貢献を視野に入れて仕事に取り組んでください。

現状維持が許されない

そして、何よりコンサルファームで活躍し続けることを難しくしているのが、常にグロース、つまり成長を求められるということです。

成長は個々人に課せられるあらゆるKPIにおいて求められます。一度高い目標をクリアしても、その次はさらに高い目標が与えられますし、同じ仕事を何年も繰り返すということは決して許されません。常に新しいチャレンジが要求され、それをクリアし続けなければ生き残ることはできないという世界なのです。

これに関しては、ただそういう環境なのだと理解するしかないのがつらいところですね。まあ、太客を掴むことで次年度に向けて成果を出し惜しみしつつうまくやろうというような生き延び方は現実には可能ですが、そのスタンスはバレるので、そういう人の出世には限界があるというのがこれまで周囲を見てきて大いに感じるところです。

最後に

10年くらい前は転職35歳限界説なんてものがまだまことしやかに喧伝されていましたが、これだけ転職市場が成熟した現在では、むしろエグゼクティブ層の転職はそれ以上の年齢層の方が主流と言ってもいいくらいです。

当然、リーダーシップを発揮するための経験を20代、30代の間にどれだけ積み上げて来られたかというのが問われますが、実力が十分に備わっていれば国内の優良企業の多くと比べて比較にならないリターンを得ることができるのが外資系コンサルファームです。

我こそはと思う40代の方は、ぜひ転職にチャレンジして日本の躍進に貢献いただきたいと思います。