It may be the cock that crows, but it is the hen that lays the eggs. ーMargaret Hilda Thatcher
声高に叫ぶのは雄鶏かもしれません。だけど卵を産むのは雌鶏です。
マーガレット・サッチャー
女性ですが、コンサル業界に憧れがあります。早く子供を産みたいと思っているため激務と家庭との両立に不安もあります。実際のところコンサルファームでは共働きの子持ち女性が活躍することは可能なのでしょうか?
結論から述べると、コンサル業界は外でイメージされているよりもはるかに女性が働きやすい環境が整っています。
探してみるとちょうど面白い記事がありました。日経WOMANが実施している「女性が働きやすい会社」ランキングの2021年の1位が総合系ファームのアクセンチュアという結果になっています。記事によるとアクセンチュアは25年までに社員の半数を女性にする目標を掲げているそうです。
また、共働き子育てしやすい企業ランキングでも3位とアクセンチュアの躍進が著しいですが、アクセンチュアに限らずコンサル業界というのは実は女性にとって働きやすさと働きがいを両立できる稀有な業界です。
コロナ禍以降の昨今の環境変化に鑑みれば、この先、より柔軟な働き方ができるようになっていくことがますます期待できると思います。本記事では、そのような状況にある背景と女性にとっての実際の外資系コンサルファームでの働き方について解説してみたいと思います。
目次
女性にとっての外資コンサルの働きやすさ
多様なワークスタイルを許容する企業風土
ダイバーシティがビジネス界のキーワードになって久しいですが、こういったコンセプトが世に広まる背景にはコンサル業界の暗躍が多分にあります。クライアント企業に対してグローバル化が進む世界の中では多様な価値観が重要だと啓蒙し、ファーム自らも女性やマイノリティの活用に力を入れる姿を見せつつ、その実現を強力に後押ししています。
多様性を受け入れるために、リモートワークのような働き方は10年以上前からコンサル業界では当たり前に行われています。私自身、クライアントサイトには当然出向きますが、社内の会議などは、コロナ禍に至るよりもずっと前からほとんどWeb会議が中心の生活でした。
海外との会議も頻繁にあるため、そのたびに現地に出向くことは困難ですから、そのためのインフラがコンサル業界で早くから整備されていたことは驚くに値しないでしょう。また、そのような海外メンバーとの交流の中では相手がどんな人種で性別がどうなんていうことは意識の中で薄れていくのがコンサルファームで働くことの価値の一つかもしれません。
そのように時間、場所に縛られない環境が整っているため、個々人の事情に合わせた柔軟な働き方も実現可能なわけです。
実際、私自身も毎日満員電車に乗って同じデスクで同じ顔ぶれの社内に出社するといった非効率な働き方とは無縁の生活を送ってきました。コロナ禍でようやく世の中が少し追いついてきた感はありますが、コンサル業界の働き方は時代を先取りしているのではないかと思います。
家庭との両立
育休はまず100%取れます。
これは女性に限らず男性社員であってもです。前述した多様性への理解が背景にありつつ、やはりコンサルワークがプロジェクト単位で進むということに起因するのでしょう。産休・育休に限らずプロジェクトの合間には長期休暇を取ることも容易です。
また、プロジェクトに参画する際に自身がどのように関わることが可能なのか(残業ができるのか、出張が可能なのかなど)を交渉することも可能です。(もちろんあなたに実力があることが前提にはなりますが)
たとえば保育園の送り迎えがあるので出社時間、退社時間を調整したいというような事情も多くの場合考慮してもらえるでしょう。若いスタッフは都内中心部に住む人が多いですが、結婚して家庭を持つようになると郊外に引っ越して家族第一という働き方にシフトする方の比率は案外多いです。そういった場合、仕事内容によってはリモート勤務の方が効率的に働くことができることも多く、自宅で勤務するということは十分に可能です。
一般にイメージされている激務というのは寝食を惜しんで働くようなスタイルで、コンサルはその権化であると思われている節があります。が、そういった非効率な働き方は基本的に否定されており、今は単位時間当たりの生産性こそが重視される世界です。そのためにも個々のライフステージに合わせて多様な働き方を許容しているというのがコンサルファームの合理的な側面です。
出世枠の大きさ
これはファームの人事担当は言葉を濁すであろう話題ですが、現在は女性社員が圧倒的に出世しやすいという構造があります。
女性活用が叫ばれて久しいものの、実態としてはそれを実現できるような実行力のある施策は日本ではほとんど採用されていません。一方で、欧米社会では女性活躍にむけた社会構造の変革があらゆる面で強く推進されてきました。
例えばフランス政府は、女性比率を高めるため、議員選挙において各党派が擁立する候補は男女比を半々にしなければならないという法(パリテ法)の施行により強制的な男女比の是正を2000年初頭に開始し、現在の政治中枢における男女平等を実現しています。また、欧米の大学では、特にトップ校ほど女性比率が半分になるように合格比率が調整されており、人材マーケットの女性参画割合が日本とは根本的に異なっています。
こういった状況下で外資系ファームではグローバルでの必達目標としての女性比率の向上が求められているわけです。つまり、日本の外資ファームにおいてはそもそも女性の市場参加者が圧倒的に少ない中で女性が選抜されやすい状況が整っていると言えます。
ちなみに冒頭の記事で取り上げたアクセンチュアの現在の社長は女性ですね。ここに女性活躍を主導しようという強い意思が読み取れます。他のファームも追従する動きが出てくるでしょうし、どこかのファームの国内のトップに女性が就任するということも遠くない将来実現されるのではないでしょうか。このように目標達成のために象徴的な施策を打つというやり方は外資コンサルの欧米的な常套手段です。
コンサル業界は今、圧倒的な女性売り手市場
転職市場の女性比率と達成目標とのGAP
すでに言及したとおり、女性比率を高めることが経営目標の一つとみなされ、必達のKPIになっています。当然、それを目指すにあたってはそもそもの女性社員の入社比率を高める必要があります。
ところが、国内市場においてコンサルを目指す女性がほとんどいないというのがコンサルファームの頭を悩ませている最大の課題です。実際に統計データを見てみると、例えばコンサルファームを志望するような人材が多いであろうハーバード大学では女性比率が5割を超えていますが、一方で東大はわずか2割に満たないという惨状です。
さらに言えば、コンサルファームが人材採用に力を入れる20代から30代半ばという年代はまさに結婚・出産適齢期と重なることもあって、応募者がまるでいないという状況です。
参考:ハーバード大学の統計データ(http://www.usnews.com/best-colleges/harvard-university-2155)
評価基準はかなり甘い
上述したとおり、そもそもの応募母数が少ないため、やはり面接までやってくる女性の比率は極めて少ないというのが面接官を長くやってきて感じる実状です。にもかかわらず内定者の一定比率を女性にしなければならないため、やはり女性への評価は男性候補と比べてとんでもなく甘くつけざるをえないというのが偽らざる事実です。これも決してファームは肯定しない話でしょうが、構造的にそうなってしまうのは仕方がありませんね。
女性にとって外資コンサルで働くデメリットは何?
実力以上に出世してしまう可能性がある
これをデメリットと言うかどうかは異論あると思います。キャリア思考であれば、前章でも述べた通り出世枠が大きいことはむしろメリットですよね。
とはいえ、コンサル業界は実力に見合わないポジションにいることは厳しいことも事実です。
個々人にはポジションに応じたKPIが設定されるため、それが達成できなければ厳しい評価やプレッシャーにさらされることになります。また、トークストレートの風土ですから、部下も上司が間違っていると思えばその意向など忖度などしてくれません。実力が伴わなければ使えない上司というレッテルが貼られてしまうことも残念ながらあります。
ただし、そういった状況におかれてしまうということは構造上当然予期される問題なので、女性幹部候補社員に向けてはどのファームも手厚くメンター制度などケアできる体制が整っていると期待してよいでしょう。
私の若い頃を思い出すと、数少ない女性はいずれも男勝りの猛者ばかりで男子校然とした雰囲気がありましたが、そういった環境だった時代と比べると現在はずいぶん共学的で温和な職場に変わったなと感じます。
まだ男性優位の社会環境
ファーム内での男女平等は徹底されていても、肝心な日本のクライアントは男性優位がまだまだ主流です。社内では男女差を意識することはないでしょうが、いざクライアントワークが始まるとそういうわけにもいかない局面がきっとあるでしょう。
残念ながらセクハラや女性差別のような問題は古い体質の企業にはまだまだ根強く残っているので、そういう言動を耳にしたり、ご自身が経験されるようなこともあるかもしれません。私自身、長く勤めた中でセクハラ問題をファームの中で聞いたことは一度もありませんが、客先の担当者がセクハラで解任されたといった類の事象には何度か遭遇しました。
しかし、そういった顧客のマインドを変えることにこそコンサルの存在意義があるとも言えます。その意味では女性活躍の世界を牽引する女性コンサルタントの躍進は望ましいものですね。
最後に
今時、お茶出しを女性社員になんてことをやっている企業はさすがに少数派ではあると思いますが、女性社員の力をまるで活かせていないと感じる企業は多く見てきました。
学生時代にずっと共学で育ってきた身としては、学力面はもちろんあらゆる面で女性が劣ると感じたことはありません。しかし、そんな女性たちは社会に出てどこに行ってしまったのでしょうか。コンサルタントとして出世していく中で、対面する相手は極端に女性がいなくなってしまいました。
もちろん家族を持ち、子供のために専業主婦になるというのも素敵な選択肢だと思いますが、でも家庭と仕事を両立できるような環境は少なくともコンサル業界においては整いつつありますし、また子育てが落ち着いてから再びビジネスに挑戦するという選択肢もあると思います。
この記事がそんな女性たちがよりよい労働環境に踏み出す一助になればと願います。